バンクロフトは大きなソファから少し身を乗り出して言った。
「なにって。まあ、わたしもそろそろ名誉が欲しくなってきたってことですかね」
マードックは、いつものようにいやらしい笑みを浮かべ、葉巻を深々と吸い、煙を吐いた。煙が天井へ伸び、そして空気中に消えた。「あなたの方こそ、一体なにを守ろうとしてるんですか。一族で株を所有して。せっかくの大新聞なんだから、もっと多くの人に読んでもらわないともったいないでしょう」
「なにを馬鹿な。洗練された記事を、洗練された人間が読む。これこそがウォールストリートジャーナルだ。お前のような人間に汚されたくない」
「ふん。汚すだなんて」マードックは、部屋に飾られたバンクロフトの肖像画に向かって言った。「似非エリートの気休めにすぎませんよ」
「な、なにを」杖を握るバンクロフトの手が怒りに震えた。「き、貴様はすでに、新聞もテレビも持っている。それも大量にだ」バンクロフトがマードックをにらみつけながら言った。「なぜこれ以上必要なんだ」
マードックは、やれやれといった面持ちで、まだ半分以上残っている葉巻を灰皿へ押しつけた。「だから言ったでしょう。名誉が欲しくなってきたと」
「なにが名誉だ。貴様が欲しいのは金だけだろうが」
「金が欲しいのはあなたの方でしょう。わたしはいくらでも出すと言ってる。はじめからそう言っている。しかし、こうやって話し合いをするたびにあなたは金額をつり上げる。投資アドバイザーを雇い、その手数料もわたしに払わせようとしている」
マードックは立ち上がり、バンクロフトを見おろした。
「あとはまた弁護士を通して話し合いましょう」そう言ってマードックは部屋を後にした。
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